二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

12章 機体に夢を 膨らませ(8)

夜の食事当番は、昨日に引き続き朋夏となった。一日働きづめで、合宿二日目にして早くも気疲れが出つつあった。なんとなく当番を回避したいという雰囲気の中で唯一元気いっぱいの朋夏が、またも真っ先に手を上げたのだ。花見は設計の作業を急ぐ必要上、きょ…

12章 機体に夢を 膨らませ(7)

ここで解散となり、朋夏は教官と一緒に、市民滑空場に久々の訓練に出かけ、花見と湖景ちゃんは、ピッチ角の自動調整プログラムの技術的な検討に入った。会長は夕食などの買い出しを兼ねて、ピッチ調整に必要な部品を探しに行った。そのため午後の作業は、僕…

12章 機体に夢を 膨らませ(6)

「まずピッチ角の調整です。これには可変ピッチ角を導入したい、と僕は思っています」 花見の花見の説明によると、プロペラが回転する時に空気のぶつかる角度がピッチ角だ。これがないと空気を後ろに送れず、プロペラを回しても飛行機は前に進まない。ピッチ…

12章 機体に夢を 膨らませ(5)

7月28日(木) 西の風 風力3 晴れ 翌朝七時。僕が目覚めた時には、もう花見のベッドは空だった。顔を洗って外に出ると、早くも白い太陽がじりじりする気配を漂わせながら青空にかかっていた。 「ん……」 誰もいない旧校舎の前に立ち、屈伸と上体そらしで身…

12章 機体に夢を 膨らませ(4)

「それじゃ、みんな食べるといいよー」 会長のあいさつで、最初の夕食を迎えた。作ったのは朋夏と花見、メニューは麻婆豆腐だ。自分が作ったような顔をしているが、もちろん会長は関係がない。 「すごくおいしいです」 一口ほお張って、満面の笑みを浮かべた…

12章 機体に夢を 膨らませ(3)

湖景ちゃんが整備していた新シミュレータープログラムのプロトタイプが完成したのは、初日の昼食を終えた後だった。分解作業が一段落し、花見が研修センターで新しい機体の設計に取りかかったため、僕は会長や名香野先輩、戻ってきた朋夏と一緒にシミュレー…

12章 機体に夢を 膨らませ(2)

研修センターでの会議は解散となったが、花見と会長は飛行機の改造に関する難しい話を始めてしまった。部屋に戻って作業服に着替えた後、格納庫に行こうとしたら、突然扉がノックされた。 半分開けたら、会長だった。会長は半開の扉から忍者のように器用に部…

12章 機体に夢を 膨らませ(1)

7月27日(水) 南の風 風力1 快晴 手には大きな荷物を、胸には希望をいっぱい抱え、僕たち6人は内浜駅に降り立った。これから大会出場に向けた合宿が始まる。 ところが僕は、爽やかな夏空の下を軽やかに歩む宇宙科学会員の浮き足とは対照的に、一人暑苦し…

【閑話休題・給電着陸11】

イラストについては何回か書きましたが、原作はほかにも魅力的な部分がたくさんあります。例えば音楽。本作では紹介できませんが、元気な主題曲「Deep Blue Sky & Pure White Wings」は朋夏のイメージにぴったりで、エンディングの「青い空と白い翼」は個人…

11章 眠りが覚めた 栄光の(7)

昼食の弁当を片づけた後の午後。花見は改造に必要な機材や製図用具をそろえるため、教官の車でホームセンターに買い出しに出た。湖景ちゃんも母親に合宿の許可を取るため、旧校舎を離れた。シミュレーションが完成していないので朋夏は自主トレ、名香野先輩…

11章 眠りが覚めた 栄光の(6)

宇宙科学会では会長、時には名香野先輩が仕切ることがあったが、花見は早くも指導力を発揮しつつある。 「まず、いったん機体を分解します」 「分解?」 僕は思わず、聞き返した。分解して再び組み立てる。それで本当に大会に間に合うのか。 「部品の重量を…

11章 眠りが覚めた 栄光の(5)

人数が増えたことで、作業分担を再検討した。花見はチーフエンジニアとして機体の改造と調整、さらに朋夏のアドバイザー役も務める。一人何役にもなって大変だが、サブエンジニアは切れ者の名香野先輩だから心配ないだろう。実際の製作は、名香野先輩と僕が…

11章 眠りが覚めた 栄光の(4)

7月26日(火) 南の風 風力3 晴れ 夏の暑さに朝から目が覚めてしまったので、とりあえず格納庫に出かけた。一番乗りと確信していたら、格納庫の前に意外な先客がいた。 「花見……」 「やあ」 花見の笑顔は、いつものように邪気がない。だから内心、僕たちに…

11章 眠りが覚めた 栄光の(3)

さっそく機体の性能のチェックから、作業を始めた。僕は先輩の指示通りに機体を動かし、部品を外し、重量を測ったりメモをしたりした。個々の作業にどんな意味があるのか、僕にはすべて理解できるわけではない。ただ時々、名香野先輩がいつぞやのように難し…

11章 眠りが覚めた 栄光の(2)

格納庫には、予想通りだが朋夏、名香野先輩の順に現れて、会長が一時ギリギリの到着だった。会長はスーパーの大きな紙袋を抱えている。その中から、お菓子やらジュースやらピザやらハンバーガーやらコップやら皿やらが、大量に出てきた。 「祝勝会やるよー。…

11章 眠りが覚めた 栄光の(1)

「割れたカーボンを修復して使おうなんて、考えない方がいいわよ。強度がばらつきすぎて、使い物にならないから。修理はあきらめるしかないわね」 名香野先輩が、あっさりと白鳥に引導を渡した。 「機体なら、ソラくんがなんとかしてくれるよねー」 無理です…

【閑話休題・給電着陸10】

前に触れましたが、2008年の初期PCゲームでは、朋夏が飛行機に乗ってビューンと空を飛ぶような明確な飛行シーンが出てきません。ボックスに表示される文章はあるんですが、原作のちょっと残念だった部分の一つです。クライマックスとなる航空部との対決では…

10章 大地を離れて 天翔ける(7)

そのあと水面ちゃんの突撃取材が始まり、集合写真を撮影し、宇宙科学会の一人一人にインタビューをして回った。取材が一段落したのは、太陽が午後を回ってからのことだ。 名香野先輩は、宇宙科学会の存続についてお墨付きをくれた。先輩は予選会開催の決定後…

10章 大地を離れて 天翔ける(6)

無我夢中で走った。最初に飛行機にたどり着いたのは、フライトを終えたばかりで一番近くにいた花見だ。その後に、整備担当の航空部員たちが集まる。滑走路の端から走った僕は、三番手だ。白い飛行機の残骸が近づくにつれ、走って紅潮しているはずの顔から血…

10章 大地を離れて 天翔ける(5)

航空部と僕たちが、滑空場の端で向かい合って並んだ。部員数の差は圧倒的で、航空部は二十人に近い。 審判団に促され、古賀会長と花見が握手をする。その後に、コイントスだ。会長が勝ち、後手を選んだ。後から飛ぶ方が相手の距離を見た上で飛行できる分、有…

10章 大地を離れて 天翔ける(4)

航空部は、宇宙科学会の後で審判のチェックが入る機体の確認に、余念がない。部員数人が、機体の周りで作業をしている。指示を出しているのは副部長だ。花見は少し離れたところで腕を組んだまま、じっとその作業を見ていた。 「どうだい、調子は」 後ろから…

10章 大地を離れて 天翔ける(3)

整備場を出た。次に見つけたのは会長だ。 航空部の連中とも格納庫とも離れて、ひとり滑走路の奥の芝にたたずんでいた。その姿がどこか寂しげに見える。 風が会長の髪をたなびかせていた。そして、あの虚無のような空色の目をしていた。どこか遠くを見ている…

10章 大地を離れて 天翔ける(2)

決戦の舞台は、航空部の滑空場だ。僕たちにとってはアウェイとなるが、割り込んできたのは僕らであって、文句は言えない。 七時に教官と二人を起こし、トラックに飛行機を積み込んだ。到着したのは八時で、機体を降ろし、全員で組み立て作業をした。 朋夏も…

10章 大地を離れて 天翔ける(1)

7月23日(土) 東の風 風力2 晴れ 旧校舎のグラウンドの東の水平線から、朝日が昇る。早朝の海風は、心地よい湿度と涼しさを運んでいた。あと数時間であの太陽が、焼き消してしまうに違いないが。 「朝……だね」 隣に立ったのは、名香野先輩だ。湖景ちゃん…

【閑話休題・給電着陸9】

恋愛ゲームでどの個別ルートが一番好きかは、プレイした人によって違います。個人的には、原作では陽向ルートが一番しっくりきています。陽向が直面するハードルは飛行機作りというゲームの主題と一致しているので、障害を越えた末にチームで飛行機を作り上…

9章 想いは一つの 羽となり(9)

愁眉を開く、とはまさにこのことだろう。いや、瞬間的に愁眉を開けたのは会長と教官、湖景ちゃんの三人だ。僕と、言いだしっぺの朋夏は、話が理解できていない。 「いける……姉さん、それいけますよ!」 「なるほど、ワイヤの代わりに光ファイバーを使うんだ…

9章 想いは一つの 羽となり(8)

まず名香野先輩のとったデータを、湖景ちゃんのミニコンにダウンロードした。すぐにスクリーン画面に映し出す。 「まず、データを整理すべきですね」 湖景ちゃんがてきぱきと作業を進める。十分ほどで問題のあるデータだけを抜き出した表を作り、印刷して全…

9章 想いは一つの 羽となり(7)

僕が格納庫に戻った時には、午後六時を回っていた。会長と湖景ちゃんがいて、機体のそばでひざを抱えて座っている名香野先輩を、心配そうに見つめている。教官は壁を背にして、腕を組んだまま無言で立っていた。 教官はどうやら、力学系に戻す命令をしなかっ…

9章 想いは一つの 羽となり(6)

夕闇が迫るコンビニの前に、長身の男がたたずんでいた。こいつと一週間も口を利かなかったのは、夏休みなどの長期休暇以外では、なかったことだ。 「やあやあ、出迎えご苦労」 上村はいつもの飄々とした雰囲気を、まるで変えていなかった。変わっていたのは…

9章 想いは一つの 羽となり(5)

「で? ヒナちゃんはどこ? 何があったのかなー?」 会長が腕を組んだまま、じっとこちらを見ている。名香野先輩がどこに行ったのか、見当もつかない。 先輩はご丁寧にも、自分のミニコンと飛行機のエンジンキーを抱えて、飛び出してしまった。お陰でこの二…