二次創作小説「水平線の、その先へ」

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6章 仲間と試練を 乗り越えて(1)

          

 

 6月28日(火) 南西の風 風力1 晴れ

 朝から久々に、青空が覗いた。きょうは気持ちよく作業ができそうだ。

 放課後になるのも待ち遠しく、朋夏と部室に行く。モーターとバッテリーを運ぶためだ。届け先が旧校舎だったら問題なかったのだが、旧校舎には常時部員がいるわけではないので仕方がない。車輪付きの荷台にモーターとバッテリーを乗せ、電車に乗って僕たちが運ぶしかない。

 旧校舎に入ると、湖景ちゃんがいた。「名香野先輩は?」と聞くと、湖景ちゃんが困った顔をした。

「あの……きょうも休むそうです。中央執行委員会の仕事が忙しいからって。明日には必ず出るそうです」

 花見との交渉結果を聞きたかったが、トラブルになったのだろうか。ただ名香野先輩抜きで作業を進めるのも、どうかと思う。そう思っていたら、会長が顔を出した。

「コカゲちゃん、とりあえずモーターを仮積みしよう。まずは計画通りに。頭の中で設計図を引いただけじゃ、うまくいかないこともある。駄目なら早めに方針を変える必要もあるからね」

「はい……わかりました」

 操縦席の前のエンジン基底部に、僕がモーターを下ろして据え付ける。バッテリーの設置場所は、主翼下が採用されたようだ。そこで電気コードを接続して伸ばしてみたが……

「ちょっと、足りないみたいですね」

 湖景ちゃんが戸惑っている。コードはモーターへの接続部分とエンジンルームのスペースの関係上、中で窮屈に折りたたむ必要があり、想定より短くなったようだ。

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「それよりもっと問題があるよー。この太いコードを、どうやって外に出すのかなー」

「会長さん、すみません……コードの太さは計算外でした」

 会長までもが思案顔だ。確かにコードの接続部分はエンジンルーム内、バッテリーを外に出すとなると、コードをどこかで機体表面を貫通させる必要がある。しかし電気コードが予想外に太いため、通すには機体に予定より大きな穴を開けるしかない。

 会長は小一時間ほど思案していたが、ついに「コカゲちゃん、外付けはあきらめよう。別の場所にするしかないよー」と、敗北を宣言した。するとバッテリーはどうするのか。

「会長、コックピットの中にバッテリーを張るのはどうですかね?」

「それなら機体に穴を開けなくて済むけど、たぶん、相当熱くなるよー。コックピットは狭いし、つけるなら両脇の内側しかないけど、パイロットが体動かしたら火傷しかねないよー」

 僕の提案はあっさりかわされ、二人はうーん、と唸ってしまった。バッテリーって、そんな危険な代物なのか。

「エンジンルームとコックピットが狭いのがいけないんですね……」

「仕方ないよー、コカゲちゃん。これ以上コックピットを広げるわけにもいかないし。あとは熱故障のリスク覚悟でエンジンルームに入れるか、穴を開けて機体の下に置くかだね……」

 会長がコックピットの中を覗きながら、思案している。別に難しい問題ではないと思うが。

「あの、それなら場所はありますけど」

「え?」

 会長と湖景ちゃんが、同時に僕を見た。ひょっとして、気づいていないのだろうか。僕はコックピットによじ登った。

「この足板の下です。フットペダルとかがありますけど、バッテリーは平べったいから、足板を外せば入るんじゃないですか」

「あ……」

 湖景ちゃんの顔に、みるみる生色が甦った。

「すごいです、平山先輩! 足板を外すのは、考えませんでした」

「いや、ビスは仮止めにしていたから、いずれ閉めないといけないと思っていたんだけど」

「なるほどー、飛行機が大体完成しているから、これがキットで取り外し自由ってこと、つい忘れていたよー」

 会長も、珍しく声がはずんでいる。

「ソラくん、伊達に飛行機作ってなかったんだね! えらいえらい」

 言われてみれば大きな部品の仮止めは、僕が支えて手際のいい名香野先輩が作業をしていた。だから湖景ちゃんは、気づかなかったのだろう。

「会長さん……なんとか、入りそうですね」

「そうだね。これはソラくんの梅雨前線を吹き飛ばす大高気圧だよー」

 バッテリーの置き場所は決まったが、狭いスペースなので固定するのにちょうどいい道具がなかった。どの道、計器の交換にも工具や新しい部品が必要になるので、今後の段取りを詰めた上で、きょうの作業はお開きになった。会長があす、ホームセンターで適当な設置版や電気機器を探してくるという。うまく部品が、はまってくれればよいのだが。