二次創作小説「水平線の、その先へ」

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16章 輝く未来の 懸け橋に(8)

 

 僕が格納庫に戻ったのは、午後二時を過ぎていた。雨が上がり、雲間から太陽がぎらぎらとした夏の光線を注いでいる。

「平山先輩!」

 真っ先に駆け寄ってきたのは、湖景ちゃんだ。その後から名香野先輩と花見が近づく。名香野先輩は、不審そうな目で僕を見つめていた。

「平山君、どういうこと? 大会まであと二日なのに職場放棄して。それに宮前さんも、あなたから電話を受けて急に出ていっちゃったし」

「すみません、先輩。これには事情があって……」

「だからその事情は何だ、と聞いているんです」

 腕組みをする名香野先輩は、説教をしようとする教師そのものだ。だが僕は先に、湖景ちゃんに声をかけた。

「お姉さんには、説明していないの?」

「え? ええ……一応、みなさんには黙っていたほうがいいかと思って」

「湖景! あなたもグルなの?」

「ええっ? その、グルというか……はい、事情は知ってました……」

 お姉さんに指摘されて、湖景ちゃんは縮こまる。

「名香野先輩、すぐにご説明します。ですが、その前に会長と話をさせていただきませんか?」

「私ならここにいるよ」

 会長がつかつかと、靴音も高く僕に歩み寄る。そしてあごを上げて、僕の顔に鼻をつけんばかりの位置まで近づいた。

「……父からメールが来た。父に会ったって、本当?」

 瞳に激しい怒気が踊っている。だが今の僕は、ひるまない。

「はい。それで全部、聞きました」

 会長の体が一瞬、ぶるっと震えた。次の瞬間には、会長の右手がひらめいて僕の頬を打ち、僕は格納庫の床に昏倒した。

「平山君!」

「平山先輩!」

 名香野先輩と湖景ちゃんが駆け寄る。だが僕は二人の手を断った。顔を上気させて胸で息をついていた会長が、くるりと踵を返し、そのまま格納庫を出ようとした時、人影がその道をふさいだ。

「……どいてよ」

「どきません、会長」

 立ちはだかったのは、朋夏だ。会長が脇をすり抜けようとするのを、すばやく両腕で抱き止めて押し返す。会長の黒髪が、珍しく乱れた。

「トモちゃん、私に反抗する気?」

 朋夏が優しい目で、微笑み返す。

「いいえ。会長からほんの少し時間をいただきたいだけです。空太の話はまだ終わっていませんよ?」

 会長が僕の方を振り向く。僕は朋夏に歩み寄った。

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「朋夏、ご苦労さん」

「ううん。空太のお母さん、驚いていたよ。あの子がまた弾く気になったって、どういう風の吹き回しですかって」

 朋夏が笑って、僕にバイオリンケースを手渡した。あの夜以来、一度も開けずに押し入れにしまったままだった、バイオリンだ。それを見た会長が「あっ」という短い声を上げた。

「これから、あなたのために一曲演奏をします。聞いていただけますね、会長?」

 会長の目が、大きく見開かれた。