17章 夢をみんなで 追う路は(5)
すべてのプログラムチェックが終わった時には、午前零時を回っていた。僕らが格納庫の扉を閉めて外に出た時には、きょうも煌めく銀河が僕らを優しく見下ろしながら、静かに息づいていた。
「あ……流れ星」
朋夏の声に、六人がいっせいに空を見上げた。だが流れ星は一瞬で消えてしまう。誰かが見つけたからといって空を見上げても無駄なんだ……そう言おうと思っていたら、その目の前で流れ星が流れた。一つ、また一つ……
「あ、また。なんかきょう流れ星が多いねー」
朋夏以外のメンバーは何も言わず、天を仰いだ。流れ星が次々と現れる。その中にはぱっと明るくなり、赤くなって燃えつきるものもあって、なかなか見ごたえがあった。
会長が、ぽんと手を打った。
「そういえばコカゲちゃん。例の流星雨って今晩じゃなかった?」
「あ……そうでした」
湖景ちゃんがミニコンを取り出し、星明りの下でぱたぱたと打ち出す。インターネットで国営気象天文台にアクセスをしていた。
「間違いありません。あと三十分ほどで、極大の予想時間ですよ」
流れ星は次々に増えていき、やがて全天にひっきりなしに瞬き始めた。
「空太、すごいよ……あたしグラウンドで見る」
朋夏がグラウンドへと駆け出していく。照明が届かないため、星が見やすいと考えたのだろう。
「すごいよ! 小さい星もいっぱい飛んでる! みんな降りてきなよ!」
明日は大会なんだから、早めに休まないと……と口まで出かかったが、僕たちもこの幻想的な天体ショーに惹かれて、ついグラウンドへと降りていった。
「わあ……本当だ」
湖景ちゃんが、感嘆したまま空を見上げる。みんな少しずつ離れて、ぽかんと口を開けたまま、夜空に降り注ぐ淡い光に、ただ眺めいってしまった。
もし、僕たちが飛行機作りをしなかったら。
湖景ちゃんの最初の提案は、この流星雨を観測して、国営気象天文台の観測計画に参加することだった。そうしたら今ごろはたぶん旧校舎で合宿し、この流れ星を必死で眺めていたわけだ。
今もみんなで合宿している点は同じだ。ただ、そうなれば名香野先輩は飛行機作りに巻き込まれず、委員長をやめることはなかった。花見も今頃は航空部で、LMG大会の最後の仕上げ作業をしていたはずだ。
そして僕も朋夏も会長もたぶん何も変わらなかった。僕たちは傷つくことも、喧嘩することもなかった。
人生は、何が変わるきっかけになるかわからない。降り続く星を見ながら、どこが分岐点だったのだろうかと振り返ってみる。会長がLMG大会のポスターを持って、部室に入ってきた時だろうか。
いや、より僕たちの変化にふさわしいのは、会長が僕たちを旧校舎に連れ出し、灯台で会長の姿が陽炎に揺れた六月一日、あの瞬間だった。それから僕たちはまるで魔法にかかったかのような、非日常的な日々を過ごしてきた。
いや。
魔法にかかったんじゃない。若い僕らは自分で自分に魔法の呪縛をかけて、勝手に苦しんでいた。あの日に始まった飛行機作りを通じて、僕たちは呪縛を解く方法にようやく気づいた。
それは、この世界で精一杯生きるということ。とても単純なことだった。
僕の隣に朋夏がいた。朋夏は何も言わず、星を見上げていた。こんな感傷的な表情が似合う女ではなかったが、きょうの朋夏の視線はなぜか優しく見えた。
「正直、少し引っかかっているんだ」
朋夏が天から視線を離さずに、呟いた。
「あたしがパイロットでいいのかってこと」
朋夏から少し離れたところで、花見も同じように空を見上げていた。
「花見君は、きっとあの子でこの空を飛びたかったんだ……それをあたしが奪って、よかったのかなって」