二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

14章 無窮の闇に 囚われて

14章 無窮の闇に 囚われて(8)

お母さんの姿が見えなくなると、僕と花見は同時に大きな安堵の息を、胸から吐き出した。 「平山君、助かった……正直、どうなることかと思ったよ」 「それは僕も同じさ。でも湖景ちゃんががんばったからこそ、お母さんを説得できたんじゃないかな」 僕は、見た…

14章 無窮の闇に 囚われて(7)

「ソラくん、お仕事。湖景ちゃんのお母さんに、湖景ちゃんを残してくれるよう説得して頂戴」 猫なで声で、予想通り無理難題を押し付ける。 「説得なんて……無理ですよ。お母さんのこと、僕はよく知らないし」 「私は湖景ちゃん姉妹の世話で精一杯だよー。ソラ…

14章 無窮の闇に 囚われて(6)

朝、格納庫に来たみんなは、湖景ちゃんの姿を見て、一様に驚いた。 「湖景! こんなところで、何やってるのよ!」 もっとも反応が激しかったのは、予想通り名香野先輩だ。湖景ちゃんが大丈夫だと言っても、聞く耳を持たない。 「どうして平山君が止めないの…

14章 無窮の闇に 囚われて(5)

8月1日(月) 北の風 風力1 曇り 八月になって最初の一日は、久しぶりの曇り空で迎えた。 僕は寝苦しいベッドで、夢を見た。 夜の街で、雪が降っていた。僕をじっと見つめる男の子がいた。 それしか覚えていないし、それ以上は思い出す気にもなれない。夢…

14章 無窮の闇に 囚われて(4)

「湖景っ!」 名香野先輩が走り寄った。湖景ちゃんはその呼びかけに答えることもなく、肩を揺すって目を覚ますこともない。気持ちよさそうに、静かな寝息を立てるだけだ。悪い予感がした。これは朋夏よりずっと重症ではないか。 「誰か人を……いえ、救急車を…

14章 無窮の闇に 囚われて(3)

何度目の墜落だろうか。急降下まではいいが、機首上げのタイミングが合わない。遅過ぎれば海面に激突し、早過ぎれば記録は伸びない。 午前中の実機飛行は無難にこなした朋夏だったが、午後に格納庫に戻ってシミュレーションを始めると、操縦は進歩するどころ…

14章 無窮の闇に 囚われて(2)

「花見には、夢があるんだよな」 「いきなり、なんだい?」 格納庫に戻った、その日の昼過ぎ。機体のモーターを整備をしていた花見が、びっくりした様子で顔を上げた。 「いや……ちょっと考えていてさ。花見や朋夏の姿を見ていたら……僕も何か見つけることがで…

14章 無窮の闇に 囚われて(1)

7月31日(日) 西の風 風力3 晴れ テスト飛行の朝。格納庫に顔を出すと、驚いたことに名香野先輩がいた。代わりに湖景ちゃんの姿が見えない。 「湖景ちゃん……きょう、どうしたんです?」 機嫌を損ねないために「珍しく先輩のほうが早いんですが」とは言わ…