二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

15章 折れた翼が 痛んでも

15章 折れた翼が 痛んでも(9)

教官は、静かに語り続ける。後輩の意識は戻ることなく、それから一週間で生涯を終えた。後輩の両親は大学を訴えようとしたが、大学が多額の金を積み、裁判になる前に和解した。事実は闇に葬られ、大会を辞退し、教官は大学から放逐された。 「……だが人一人を…

15章 折れた翼が 痛んでも(8)

目を覚ました時、涙が頬を伝って流れていた。 僕は暗い部屋のベッドに横になっていて、机の上に蛍光灯の明かりがひとつ。その光をさえぎるように、僕の顔を心配そうに覗き込む人影があった。その姿はいつか、夏に近い旧校舎のグラウンドで見た影に似ていた。…

15章 折れた翼が 痛んでも(7)

二年前の十二月二十四日。温暖化の進んだこの国の首都で、師走に雪がちらつくのは珍しかった。 日本で最高の演奏の舞台として知られる、東京KCホールの前に立つ。自分がここで演奏する日がこんなに早く来るとは正直、予想しなかった。だが恐らく、一生に一…

15章 折れた翼が 痛んでも(6)

会長は食堂にいた。なぜかテーブルにウエッジウッドのティーセットが並び、琥珀色の液体が芳香をたたえている。いつのまに合宿所に持ち込んだのだろう。 「会長……ずいぶんと余裕みたいですね」 「んー、そうかな。普通だと思うけど?」 高校生の合宿で普通と…

15章 折れた翼が 痛んでも(5)

8月3日(水) 西の風 風力4 晴れ 「え? 会長さんが私を宇宙科学会に誘った理由ですか?」 朝日の差し込む研修室で、シミュレーションソフトの改良に一心に取り組んでいた湖景ちゃんが手を休めた合間を見計らって、僕は尋ねてみた。会長は行方不明で、花…

15章 折れた翼が 痛んでも(4)

夏の夕陽は、昼と変わらぬ炎の影をグラウンドに落とす。国道から旧校門へと向かう坂に最初に現れたのは、予想通り朋夏だ。運動部で鍛えていたはずの花見に、影も踏ませない走りだろう。朋夏が旧校門を抜けたところで、花見の姿が見えた。朋夏はグラウンドを…

15章 折れた翼が 痛んでも(3)

午後になって教官が戻り、飛行訓練のため朋夏と花見を連れて市民滑空場に向かった。名香野先輩は湖景ちゃんの体調を考えて冷房の効いた研修室に移り、二人でバグのチェックに精を出している。昼食後に覗いてみたら、以前と変わらず仲睦まじく仕事をしていた…

15章 折れた翼が 痛んでも(2)

8月2日(火) 西の風 風力4 晴れ 教官が実行委員会の準備のため、午前中は旧校舎を離れた。大会が近づいていることを実感する。朋夏はシミュレーターでの操縦トレーニングとなった。だが墜落を繰り返し、花火の時の元気はすでになくなっている。 「大丈夫…

15章 折れた翼が 痛んでも(1)

その日の夜は、なぜかグラウンドで、花火大会となった。 仕掛けたのはもちろん、会長だ。どういう手際の良さか、花火だけでなく浴衣まで人数分、そろえていた。 ふだんは作業作業と真面目な花見も、きょうばかりは何も言わなかった。名香野姉妹や朋夏の気分…