二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

16章 輝く未来の 懸け橋に

【閑話休題・給電着陸14】

しばらく無給電で更新を続けました。長かったフライトも残りは一章、ドーバー海峡の横断だけとなりました。 この間は実際のシナリオとかなり違う設定や新規の人物を織り込んでいることもあり、できるだけ矛盾が生じないよう全体のチェックと微修正を進めまし…

16章 輝く未来の 懸け橋に(10)

「父が用意した大会に、私が勝手に出てきて、優勝する。父の目の前で、ちょっと鼻を明かしたくなった。最初は、それだけなの」 会長がぽつりぽつりと、重い口を開き始める。僕たちは格納庫で車座に座り、会長の独白に、聞き入っていた。 「だけど、本当にで…

16章 輝く未来の 懸け橋に(9)

格納庫に椅子が五つ、並べられた。僕は飛行機をバックに、バイオリンを持つ。 ひさびさの滑らかな楽器の感触に、胸に懐かしさが湧き上がった。同時に、不安も覚える。最初に音の調節をした。格納庫に弦の音が響く。 会長は一言も発せず、床に座り込んでいた…

16章 輝く未来の 懸け橋に(8)

僕が格納庫に戻ったのは、午後二時を過ぎていた。雨が上がり、雲間から太陽がぎらぎらとした夏の光線を注いでいる。 「平山先輩!」 真っ先に駆け寄ってきたのは、湖景ちゃんだ。その後から名香野先輩と花見が近づく。名香野先輩は、不審そうな目で僕を見つ…

16章 輝く未来の 懸け橋に(7)

8月5日(木) 北の風 風力3 雨 今朝は珍しく、朝から雨模様だった。 東京に出てきたのは、一昨年の暮れ以来だ。コンサートの後、一度も踏み入れなかったコンクリートと雑踏だらけの町に、僕は相変わらず好意を持つことができない。要するに僕は、生粋のイ…

16章 輝く未来の 懸け橋に(6)

会長の心の青空を取り戻したい。だが、どうすればいいのだろう。 僕は一向に晴れ間の見えない夜の屋上に見切りをつけ、旧校舎の敷地やグラウンドをあてもなく歩き回った。 気がつくと、格納庫の前にいた。暗闇の中で雲間から覗く月明かりに時折輝く白い機体…

16章 輝く未来の 懸け橋に(5)

夕食の片づけを終わると、外はすっかり暗くなっていた。やはり食事の間に一雨きたらしい。外は山風に変わり、涼しい湿気を運んでいる。 夕食は会長が担当した。といっても、僕らが準備をしようとすると、すでに大鍋に温かいブイヤベースと完璧なサラダができ…

16章 輝く未来の 懸け橋に(4)

「僕の誤解はあるかもしれません。でもそうなら、はっきりそう仰ってください。自分から何も言わずに、人に理解されることなんてできません」 「私は人に理解されることなんて、求めていないんだよ」 会長が搾り出すように、言葉を繰り出し始めた。 「ソラく…

16章 輝く未来の 懸け橋に(3)

会長はいつもの灯台の下、高台から遠くの海を望む公園に立っていた。見ているだけで吸い込まれそうな黒髪は、青空に落ちた一筋の影だった。 カモメの鳴き声が、きょうはやけに物悲しく聞こえる。それは僕がこの光景に、孤独を見ているからだろうか。そして彼…

16章 輝く未来の 懸け橋に(2)

「もう……どうなっちゃうのかしら」 聡明で知られる名香野先輩が、深刻な事態を明らかに持て余している。事務処理の遅れならともかく、ことが人間関係だけに打つ手なしという状態だ。湖景ちゃんは、ますますミニコンの世界にのめり込んでいた。 航空部はその…

16章 輝く未来の 懸け橋に(1)

8月4日(木) 南の風 風力1 曇り きょうも朝からミンミンゼミが、わが世の春が来たとばかりにけたたましい咆哮を上げる。いや、蝉にとっては春より夏なんだけど。夕方になればヒグラシ、夜はカエルと虫のオーケストラだ。田舎の夏は意外に静かな時間がな…