二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

17章 夢をみんなで 追う路は

17章 夢をみんなで 追う路は(10)

午後、西風がやや北向きに変わった。軽い向かい風は、絶好の条件だ。 すべての準備を終えた朋夏が、コックピットに収まった。前の機体のフライトが終わり、海上の機体の回収を終えれば僕らの番だ。最後まで風防にしがみついていたのは花見で、朋夏に事細かに…

17章 夢をみんなで 追う路は(9)

「平山先輩。ウチ、朋夏先輩の無視界飛行の件、記事に書きました。ちょうどあすが定期発刊日なので印刷して、学内ウェブでも公開するつもりです」 水面ちゃんが胸の前で広げて見せたのは、朋夏が目隠し飛行をすることを非難する記事だった。 「最初に言って…

17章 夢をみんなで 追う路は(8)

上村はギャラリーたちから少し離れ、審査員席の裏手にある駐車場に、僕を連れて行った。真っ青な空と海に巨大な入道雲が立ち並び、夏本番という言葉をそのまま水彩画にしたような光景だった。 「なかなか壮観だ。三十機近い機体が集まるとはな。レベルが高い…

17章 夢をみんなで 追う路は(7)

8月7日(日) 西の風 風力3 快晴 この夏のすべてを費やして取り組んできた、大会の日を迎えた。 教官のトラックで会場に飛行機を運んだ時には、すでに三十機以上の機体が砂浜に並んでいた。参加チームは全国から集まり、ほとんどが昨日のうちに、内浜海岸…

17章 夢をみんなで 追う路は(6)

「花見は気にしていないんじゃないか?」 「そんなはずはないよ。誰よりもこの飛行機をよく知っていて、飛びたかった人じゃない。それなのに負けたことを気にして、あたしたちに遠慮して、一言も自分から乗りたいって言わなかった」 勝敗なんか気にせず、仲…

17章 夢をみんなで 追う路は(5)

すべてのプログラムチェックが終わった時には、午前零時を回っていた。僕らが格納庫の扉を閉めて外に出た時には、きょうも煌めく銀河が僕らを優しく見下ろしながら、静かに息づいていた。 「あ……流れ星」 朋夏の声に、六人がいっせいに空を見上げた。だが流…

17章 夢をみんなで 追う路は(4)

「結論から言います」 僕はもう一度、みんなを集めた。全員の視線が僕に集まる。その頭上に、大きな青空があった。青空はどこまでも遠く、雄大に広がっている。 「明日のパイロットは、朋夏でいきたい」 「でも……!」 そう反論しかけたのは、名香野先輩だ。…

17章 夢をみんなで 追う路は(3)

「無視界飛行、だと?」 僕が最初に相談したのは、教官だ。予想通り眉が上がる。 「航空機の操縦には視界でなく計器のみに頼る飛行もある。だがそれは高度な安全システムと技術を備えたパイロット、的確な管制があって初めて成立するものだ」 「教官。朋夏に…

17章 夢をみんなで 追う路は(2)

8月6日(土) 風弱く 晴れ 新しい日。昨日と同じ太陽なのに、新しい朝日だ。 午前六時、僕は柔らかな朝日の差し込む格納庫にいた。五時半に朋夏に起こされ、シミュレーターの訓練につきあっている。 朋夏は相変わらず、墜落を繰り返す。そして極端に口数が…

17章 夢をみんなで 追う路は(1)

校庭越しに見える内浜の渚が、夕焼けで茜色に染まる。昼の蒸し暑さを吹き飛ばす涼風が、グラウンドを駆け抜けていった。 きょうから食事を作る時間を作業に割くため、配達の弁当となった。大会まであと二日、長かった合宿もそれで終わりだ。 即席の演奏会が…