二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

9章 想いは一つの 羽となり

【閑話休題・給電着陸9】

恋愛ゲームでどの個別ルートが一番好きかは、プレイした人によって違います。個人的には、原作では陽向ルートが一番しっくりきています。陽向が直面するハードルは飛行機作りというゲームの主題と一致しているので、障害を越えた末にチームで飛行機を作り上…

9章 想いは一つの 羽となり(9)

愁眉を開く、とはまさにこのことだろう。いや、瞬間的に愁眉を開けたのは会長と教官、湖景ちゃんの三人だ。僕と、言いだしっぺの朋夏は、話が理解できていない。 「いける……姉さん、それいけますよ!」 「なるほど、ワイヤの代わりに光ファイバーを使うんだ…

9章 想いは一つの 羽となり(8)

まず名香野先輩のとったデータを、湖景ちゃんのミニコンにダウンロードした。すぐにスクリーン画面に映し出す。 「まず、データを整理すべきですね」 湖景ちゃんがてきぱきと作業を進める。十分ほどで問題のあるデータだけを抜き出した表を作り、印刷して全…

9章 想いは一つの 羽となり(7)

僕が格納庫に戻った時には、午後六時を回っていた。会長と湖景ちゃんがいて、機体のそばでひざを抱えて座っている名香野先輩を、心配そうに見つめている。教官は壁を背にして、腕を組んだまま無言で立っていた。 教官はどうやら、力学系に戻す命令をしなかっ…

9章 想いは一つの 羽となり(6)

夕闇が迫るコンビニの前に、長身の男がたたずんでいた。こいつと一週間も口を利かなかったのは、夏休みなどの長期休暇以外では、なかったことだ。 「やあやあ、出迎えご苦労」 上村はいつもの飄々とした雰囲気を、まるで変えていなかった。変わっていたのは…

9章 想いは一つの 羽となり(5)

「で? ヒナちゃんはどこ? 何があったのかなー?」 会長が腕を組んだまま、じっとこちらを見ている。名香野先輩がどこに行ったのか、見当もつかない。 先輩はご丁寧にも、自分のミニコンと飛行機のエンジンキーを抱えて、飛び出してしまった。お陰でこの二…

9章 想いは一つの 羽となり(4)

7月22日(金) 西の風 風力4 快晴 朝から、西風が強い。あの六月の日と同じように。そして太陽は中天にさしかかり、さんさんと夏の光を地表に降らせていた。だが僕たちの心に立ち込めた雨雲の下に、その光は届きそうにない。 予選会は、明日。そして時計は…

9章 想いは一つの 羽となり(3)

コンビニでお茶を人数分購入し、国道沿いの歩道を歩いていると、夕暮れの砂浜を黙々とランニングをしている朋夏の姿が見えた。きょうは朝からシミュレーター、午後が滑空場と、大忙しだったはずだが、日が落ちそうになるこの時間まで、一人でトレーニングを…

9章 想いは一つの 羽となり(2)

「先輩。少し、休みませんか」 すでに、日が傾きかけている。僕はもうきょう何度目か忘れてしまった同じ言葉を、名香野先輩にかけた。 「ごめんなさい。今、大事なデータを取っている最中だから」 名香野先輩の返事も同じだ。相変わらずつれない。 格納庫の…

9章 想いは一つの 羽となり(1)

7月21日(木) 北西の風 風力1 晴れ 夏休みの初日は、かつてなく重い気分を抱えて、迎える羽目になった。 朝、九時に格納庫に着くと、すでに名香野先輩がいた。きょうはすこぶる機嫌が悪い。何かにいらつき、独り言を言ったり、せわしなく歩き回ったり、頭…