二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

また暑い夏が来ました

朋夏の風を感じるイラストが映える季節ですねー

おしまい。

内浜学園高等部宇宙科学会のみんな、この10年間ありがとう。青い空と海の舞台、原作を作ってくれたスタッフの皆様にも、この場を借りてお礼を申し上げます。それと小説としては本当に拙い本作品を一節でも読んでいただける方がいたとしたら、重ねてですが、…

あとがき・6

意外に苦労しそうなのが陽向かな。まず執行委員会に復帰したことで、空の活動からは自然と距離を置くでしょう。湖景が自立すれば少しずつ離れるでしょうし、お母様への複雑な思いは埋めきれなさそうです。優秀ですが生真面目で、周囲との距離をとりにくい方…

あとがき・5

朋夏はテスト勉強で悲惨な姿を見せ「学校の勉強が合わない」というキャラクターになっていますが、飛行機作りという知的なシナリオのせいか、原作でも完全なおバカにはなっていません。本作ではアスリートらしい精神の強さを強調しつつ、機転の利いた知性も…

あとがき・4

執筆から10年が経ち、自分にとっても青春時代は遠い過去になり、教官を超えるような年齢になりました。改めて読み返して思うのは、宇宙科学会のみんなが今頃どうしているのかな、ということです。 そもそも原作が当時より10~20年先の設定の話だったと記憶し…

あとがき・3

陽向はフライ・バイ・ラジオの解決に少し劇的な展開をアレンジした他は、ほぼ原作に近い進行だったと思います。原作でも飛行機製作の技術的な苦労がよく出ていて、一番好きだった展開です。 クーデターを起こした上村は、原作では所属学会不詳です。委員会員…

あとがき・2

前半はほぼゲーム通りの展開でしたが、後半は構成を大きく変更しました。原作の後半はシナリオが完全に独立し整合性もなかったのに対し、沙夜子・湖景・朋夏ルートを並行展開させたのも理由ですが、原作で弱かったシナリオを補強するには大きく手を入れるし…

あとがき・1

作品を無事、最後まで載せることができました。万一ですが最初から(飛ばしでも)通読していただいた方がいらっしゃれば、長い長いフライトお疲れさまでした。厚くお礼申し上げます。拙い二次創作小説ながら私の原点でもあり、10年間のメモリの肥やしから電子…

エピローグ 水平線の、その先へ(3)

何がなんだかわからない。こいつは興奮すると話の脈絡がつかなくなる。 「落ち着いて話せ。水面ちゃんから朋夏にメールが届いて、それがどうなったんだ?」 「違うよ、空太あてだよ! それがね……あーもう、何から話していいのかわかんない。とりあえずメール…

エピローグ 水平線の、その先へ(2)

校庭で芝を踏んでいると、突然後ろから声をかけられた。 「平山。久しぶりだな」 「え?……あっ、教官!」 教官と会ったのも大会直後の片づけ以来のことだ。たった一月のブランクだというのに、懐かしさがこみ上げてくる。 「どうなさったんですか? 大会が終…

エピローグ 水平線の、その先へ(1)

9月1日(火) 西の風 風力4 晴れ 夏の日差しは、日を追うごとに柔らかくなる。九月最初の一日は、高く透き通る秋めいた空が広がっていた。 午前中に始業式を済ませた後、僕は一人で内浜に来た。理由は、特にない。 何となく足が向いた、としか言いようが…

17章 夢をみんなで 追う路は(10)

午後、西風がやや北向きに変わった。軽い向かい風は、絶好の条件だ。 すべての準備を終えた朋夏が、コックピットに収まった。前の機体のフライトが終わり、海上の機体の回収を終えれば僕らの番だ。最後まで風防にしがみついていたのは花見で、朋夏に事細かに…

17章 夢をみんなで 追う路は(9)

「平山先輩。ウチ、朋夏先輩の無視界飛行の件、記事に書きました。ちょうどあすが定期発刊日なので印刷して、学内ウェブでも公開するつもりです」 水面ちゃんが胸の前で広げて見せたのは、朋夏が目隠し飛行をすることを非難する記事だった。 「最初に言って…

17章 夢をみんなで 追う路は(8)

上村はギャラリーたちから少し離れ、審査員席の裏手にある駐車場に、僕を連れて行った。真っ青な空と海に巨大な入道雲が立ち並び、夏本番という言葉をそのまま水彩画にしたような光景だった。 「なかなか壮観だ。三十機近い機体が集まるとはな。レベルが高い…

17章 夢をみんなで 追う路は(7)

8月7日(日) 西の風 風力3 快晴 この夏のすべてを費やして取り組んできた、大会の日を迎えた。 教官のトラックで会場に飛行機を運んだ時には、すでに三十機以上の機体が砂浜に並んでいた。参加チームは全国から集まり、ほとんどが昨日のうちに、内浜海岸…

17章 夢をみんなで 追う路は(6)

「花見は気にしていないんじゃないか?」 「そんなはずはないよ。誰よりもこの飛行機をよく知っていて、飛びたかった人じゃない。それなのに負けたことを気にして、あたしたちに遠慮して、一言も自分から乗りたいって言わなかった」 勝敗なんか気にせず、仲…

17章 夢をみんなで 追う路は(5)

すべてのプログラムチェックが終わった時には、午前零時を回っていた。僕らが格納庫の扉を閉めて外に出た時には、きょうも煌めく銀河が僕らを優しく見下ろしながら、静かに息づいていた。 「あ……流れ星」 朋夏の声に、六人がいっせいに空を見上げた。だが流…

17章 夢をみんなで 追う路は(4)

「結論から言います」 僕はもう一度、みんなを集めた。全員の視線が僕に集まる。その頭上に、大きな青空があった。青空はどこまでも遠く、雄大に広がっている。 「明日のパイロットは、朋夏でいきたい」 「でも……!」 そう反論しかけたのは、名香野先輩だ。…

17章 夢をみんなで 追う路は(3)

「無視界飛行、だと?」 僕が最初に相談したのは、教官だ。予想通り眉が上がる。 「航空機の操縦には視界でなく計器のみに頼る飛行もある。だがそれは高度な安全システムと技術を備えたパイロット、的確な管制があって初めて成立するものだ」 「教官。朋夏に…

17章 夢をみんなで 追う路は(2)

8月6日(土) 風弱く 晴れ 新しい日。昨日と同じ太陽なのに、新しい朝日だ。 午前六時、僕は柔らかな朝日の差し込む格納庫にいた。五時半に朋夏に起こされ、シミュレーターの訓練につきあっている。 朋夏は相変わらず、墜落を繰り返す。そして極端に口数が…

17章 夢をみんなで 追う路は(1)

校庭越しに見える内浜の渚が、夕焼けで茜色に染まる。昼の蒸し暑さを吹き飛ばす涼風が、グラウンドを駆け抜けていった。 きょうから食事を作る時間を作業に割くため、配達の弁当となった。大会まであと二日、長かった合宿もそれで終わりだ。 即席の演奏会が…

【閑話休題・給電着陸14】

しばらく無給電で更新を続けました。長かったフライトも残りは一章、ドーバー海峡の横断だけとなりました。 この間は実際のシナリオとかなり違う設定や新規の人物を織り込んでいることもあり、できるだけ矛盾が生じないよう全体のチェックと微修正を進めまし…

16章 輝く未来の 懸け橋に(10)

「父が用意した大会に、私が勝手に出てきて、優勝する。父の目の前で、ちょっと鼻を明かしたくなった。最初は、それだけなの」 会長がぽつりぽつりと、重い口を開き始める。僕たちは格納庫で車座に座り、会長の独白に、聞き入っていた。 「だけど、本当にで…

16章 輝く未来の 懸け橋に(9)

格納庫に椅子が五つ、並べられた。僕は飛行機をバックに、バイオリンを持つ。 ひさびさの滑らかな楽器の感触に、胸に懐かしさが湧き上がった。同時に、不安も覚える。最初に音の調節をした。格納庫に弦の音が響く。 会長は一言も発せず、床に座り込んでいた…

16章 輝く未来の 懸け橋に(8)

僕が格納庫に戻ったのは、午後二時を過ぎていた。雨が上がり、雲間から太陽がぎらぎらとした夏の光線を注いでいる。 「平山先輩!」 真っ先に駆け寄ってきたのは、湖景ちゃんだ。その後から名香野先輩と花見が近づく。名香野先輩は、不審そうな目で僕を見つ…

16章 輝く未来の 懸け橋に(7)

8月5日(木) 北の風 風力3 雨 今朝は珍しく、朝から雨模様だった。 東京に出てきたのは、一昨年の暮れ以来だ。コンサートの後、一度も踏み入れなかったコンクリートと雑踏だらけの町に、僕は相変わらず好意を持つことができない。要するに僕は、生粋のイ…

16章 輝く未来の 懸け橋に(6)

会長の心の青空を取り戻したい。だが、どうすればいいのだろう。 僕は一向に晴れ間の見えない夜の屋上に見切りをつけ、旧校舎の敷地やグラウンドをあてもなく歩き回った。 気がつくと、格納庫の前にいた。暗闇の中で雲間から覗く月明かりに時折輝く白い機体…

16章 輝く未来の 懸け橋に(5)

夕食の片づけを終わると、外はすっかり暗くなっていた。やはり食事の間に一雨きたらしい。外は山風に変わり、涼しい湿気を運んでいる。 夕食は会長が担当した。といっても、僕らが準備をしようとすると、すでに大鍋に温かいブイヤベースと完璧なサラダができ…

16章 輝く未来の 懸け橋に(4)

「僕の誤解はあるかもしれません。でもそうなら、はっきりそう仰ってください。自分から何も言わずに、人に理解されることなんてできません」 「私は人に理解されることなんて、求めていないんだよ」 会長が搾り出すように、言葉を繰り出し始めた。 「ソラく…

16章 輝く未来の 懸け橋に(3)

会長はいつもの灯台の下、高台から遠くの海を望む公園に立っていた。見ているだけで吸い込まれそうな黒髪は、青空に落ちた一筋の影だった。 カモメの鳴き声が、きょうはやけに物悲しく聞こえる。それは僕がこの光景に、孤独を見ているからだろうか。そして彼…