二次創作小説「水平線の、その先へ」

当ブログは二次創作小説(原作:水平線まで何マイル?)を掲載しています。最初から読みたい方は1章をクリックしてください。

9章 想いは一つの 羽となり(4)

7月22日(金) 西の風 風力4 快晴 朝から、西風が強い。あの六月の日と同じように。そして太陽は中天にさしかかり、さんさんと夏の光を地表に降らせていた。だが僕たちの心に立ち込めた雨雲の下に、その光は届きそうにない。 予選会は、明日。そして時計は…

9章 想いは一つの 羽となり(3)

コンビニでお茶を人数分購入し、国道沿いの歩道を歩いていると、夕暮れの砂浜を黙々とランニングをしている朋夏の姿が見えた。きょうは朝からシミュレーター、午後が滑空場と、大忙しだったはずだが、日が落ちそうになるこの時間まで、一人でトレーニングを…

9章 想いは一つの 羽となり(2)

「先輩。少し、休みませんか」 すでに、日が傾きかけている。僕はもうきょう何度目か忘れてしまった同じ言葉を、名香野先輩にかけた。 「ごめんなさい。今、大事なデータを取っている最中だから」 名香野先輩の返事も同じだ。相変わらずつれない。 格納庫の…

9章 想いは一つの 羽となり(1)

7月21日(木) 北西の風 風力1 晴れ 夏休みの初日は、かつてなく重い気分を抱えて、迎える羽目になった。 朝、九時に格納庫に着くと、すでに名香野先輩がいた。きょうはすこぶる機嫌が悪い。何かにいらつき、独り言を言ったり、せわしなく歩き回ったり、頭…

【閑話休題・給電着陸8】

原作のゲームでは飛行機の理屈やモーターなどの技術的な部分を、キャラクターが説明する場面がいくつも挿入されています。私は航空工学には疎いですが、素人目には力が入っており、物語にリアリティーを持たせたいと制作スタッフが勉強したか、経験者や助言…

8章 きらめく星に 見守られ(10)

7月20日(水) 北西の風 風力1 晴れ きょうは終業式だ。いつもより長めの朝礼が行われ、ホームルームで成績表と、休み中の注意事項が伝達される。全員で教室の掃除をし、午前中ですべての作業が終わると、僕は朋夏と一緒に旧校舎へと向かった。 きのうはあ…

8章 きらめく星に 見守られ(9)

7月19日(火) 南の風 風力2 曇り 日曜日の夕方には会長が、フライ・バイ・ラジオ・システムに必要な部品と、どのような手段を講じたのか知らないが、航空部から強奪したらしい古い操縦桿とペダル、壊れた計器パネルを届けてくれた。まずはシステム構築を…

8章 きらめく星に 見守られ(8)

7月17日(日) 南の風 風力1 晴れ 「フライ・バイ……ラジオ?」 翌日の朝。僕たち全員は作業の前に、格納庫に集まった。そこで名香野先輩から出た提案と発想は、素人の僕たちには驚くべき内容だった。 「操舵のための索や滑車って、結構な重さがあるのよ。…

8章 きらめく星に 見守られ(7)

7月16日(土) 北西の風 風力2 快晴 予選会まで、あと一週間。きょうは白鳥の、二回目の試験飛行の日だ。 今回は滑空場に着いてからも、入念にモーターテストを繰り返した。初飛行の高揚感はなくなり、僕たちは整備に集中した。今回の飛行で問題が見つかれ…

8章 きらめく星に 見守られ(6)

7月15日(金) 南西の風 風力1 快晴 きょうの三時間目が物理だった。僕がそうっとテストを開くと、「三十二点」という数字が見えた。ひどい点数だ。だが赤点でないことは、間違いない。これで全教科、超低空飛行ながら、残らず赤点を踏まずにクリアした。…

8章 きらめく星に 見守られ(5)

部室には、朋夏と湖景ちゃんがいた。二人ともパイプ椅子に深く腰かけ、沈んだ様子でうつむいている。 「湖景ちゃん……名香野先輩は?」 「連絡が取れません……昼に教室に行っても、いなくて」 やはりショックが大きかったのだろう。何とか見つけて、元気づけて…

8章 きらめく星に 見守られ(4)

僕が教室ですぐに上村に問いたださなかったのは、頭の中で上村の行動を理解しようと、努めていたからだ。しかし、何も考えがまとまらない。上村もきょうは、僕と一度も顔をあわせようとしなかった。というより、教室全体が上村に対して、腫れ物に触るような…

8章 きらめく星に 見守られ(3)

7月13日(水) 南西の風 風力1 晴れ 朋夏と名香野先輩が元気になったのはうれしいが、事態はそれほど好転していない。機体の技術や知識、パイロットの技量などで航空部と僕らには雲泥の差があり、ULPだけで勝てるような甘い世界では決してない。それは琵琶…

8章 きらめく星に 見守られ(2)

7月12日(火) 南西の風 風力2 快晴 きょうは航空部の練習を見に行く日だ。授業が終わり、朋夏と名香野先輩と三人一緒に、電車に乗り込んだ。 つり革につかまる名香野先輩の顔色は、今ひとつ冴えず、道中には一言も発しなかった。トルク調整の失敗をずっと…

8章 きらめく星に 見守られ(1)

7月11日(月) 風弱く 晴れ 朝、教室に入ると、上村がまた難しそうな顔で、腕組みをしていた。 「どうした、元気がないな」 「平山か。聞いたぞ。飛行機が完成を見たそうじゃないか」 「もう知っているのか」 「情報は時間が命だからな。それにしても、驚き…

【閑話休題・給電着陸7】

作品の魅力を語る時に欠かせないピースに、深崎暮人さんの美麗なイラストがあります。アニメの色のベタ塗りと少し違い、水彩画を思わせる淡いタッチで、人物や空や海や雲を描いています。発売当時はこのイラストも話題になり、ゲーム店でいわゆる表紙買いを…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(10)

10 高級そうなスーツに身を包んだ男が扉を開け、一礼して入ってきた。僕たちも思わず立ち上がって、その大会役員という男にあいさつしようとして顔を上げ……言葉を失った。湖景ちゃんもそうだ。ぽかんと口を開けたまま、声が出そうで出ない。 「き……教官?」 …

7章 鎖を断ち切る 闘いは(9)

9 学校に着き、中央執行委員会室に向かう。部活を一生懸命していなかった今までは、日曜の学校に来たことはなかった。グラウンドや体育館では運動部が走り回り、吹奏楽部の練習する演奏が校内に響いているが、生徒の往来はほとんどない。見飽きたはずの学校…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(8)

8 7月10日(日) 西の風 風力5 晴れ 久々の休日。僕は朝八時に目が覚めたが、もう一眠りを決め込んだ。休日の二度寝くらい、幸せな瞬間はない……そう思って夢の世界に戻りつつあった時、僕は母さんの声で現実の世界へと引き戻された。 「空太あ。まだ寝て…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(7)

7 僕たちはその後、着陸した機体を、協力して駐機場まで運んだ。花見も手を貸してくれた。その後で、教官が全員に集合をかけた。 「宮前、落ち着いたか? では、今回の飛行の反省会をするぞ」 一同がなんとなく、居住まいを整える。 「誰でもいい。何か気づ…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(6)

6 僕たちの作った飛行機が、順調に滑走路を走り出している。いよいよテイクオフだ。ここまでは期待で胸が熱くなっていたが、急に不安に襲われた。本当に飛ぶのか。本当に安全なのか。思わず、拳を握っていた。 右隣で教官が、じっと飛行機を見つめている。…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(5)

5 いよいよだ。一か月あまり、文字通り心血を注いで作ってきた飛行機が、大空に飛び立つ日がやってきた。 主翼を外した飛行機を、トラックで滑空場に運ぶ。トラックの助手席には当然のように会長が座り、僕たちは飛行機と一緒に荷台に乗った。滑空場で組み…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(4)

4 7月9日(土) 北西の風 風力3 快晴 朝の新聞に「内浜市役所職員、大トラで大暴れ」という記事があった。夜の繁華街で乱闘騒ぎを起こし、警察沙汰になったという。酔いが醒めた後の弁解が「市民との応対でストレスがたまり深酒をした」だそうだ。これっ…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(3)

3 「さ、ヒナちゃんの体調も心配だし、きょうはお開きにしよー。帰りの道すがら、君たちにジュースでもおごってあげることにしようか」 「え、いいの? 古賀さん」 「もちろん! 委員会への賄賂で得点を稼いでおくのも、組織の長の務めだからねー」 「い………

7章 鎖を断ち切る 闘いは(2)

2 朋夏がランニングに出たので、僕が機体を操作することになった。エンジンカバーを外し、給電線をモーターにつなぐ。機体によじのぼり、計器が設置されてさらに窮屈になったコックピットに体をおさめた。 「平山先輩、聞こえますか?」 気がつくと、計器の…

7章 鎖を断ち切る 闘いは(1)  

7月8日(金) 北西の風 風力3 晴れ 期末試験が終わった。午後から一週間ぶりに、部活が始まる。 この四日間、僕は朋夏以外の宇宙科学部員と誰にも会わず、連絡も取らなかった。試験の手ごたえはというと、前回の中間試験と似たりよったり、という印象だ。…

【閑話休題・給電着陸6】

高校生の学園モノでひと夏の活動。というと合宿とか海とか肝試しとか夏祭りとか花火大会とかイベントが入るのが、アニメやゲームやライトノベルの定番です。勉強会もその一つですね。現実の高校生活にそんなイベントはほとんど訪れないものですが、こうした…

6章 仲間と試練を 乗り越えて(7)

7 7月4日(月) 西の風 風力3 雨 テストの前日とあって、授業はそれほど進展しない。テスト向けに重要な部分を復習する内容が多い。この二日間、がむしゃらに勉強したおかげで、少し内容がわかってきた気がする。一週間早く始めていれば……という後悔の台…

6章 仲間と試練を 乗り越えて(6)

6 7月3日(日) 東南の風 風力1 曇り 翌日、僕らは内浜の市民滑空場にいた。 理由は、朋夏が飛行訓練をするためだ。試験飛行前に今週一回でも飛んでおかないと、飛行許可を取るスケジュールが厳しくなるというのが、会長と教官が下した結論だった。ただ…

6章 仲間と試練を 乗り越えて(5)

5 ※しばらく期末試験勉強の話になります。ゲーム上のイベントで話の本筋にはかかわりません。興味のない方は7章に飛んでください。 7月2日(土) 風力4 雨 期末試験。この山を越えなければ、大会はおろか、完成間近の飛行機を飛ばすこともできない。何し…